中央大学文学部教授 山田昌弘×NOZZE.代表 須野田珠美
対談 結婚の◯◯学「第5回目 : 家族社会学」
(結婚アテンダント公式テキスト第1章 「非婚化・晩婚化」について)
日本で少子化対策が失敗した理由
「婚活」「パラサイトシングル」「格差社会」といった造語を考案・提唱する中央大学文学部教授の山田昌弘(やまだまさひろ)先生。ご専門である家族社会学・感情社会学、ジェンダー論の枠に留まらず、著書も多数おありの方です。
今回は「婚活」という言葉の生みの親である山田昌弘先生に、NOZZE.代表取締役 須野田珠美が「結婚の家族社会学」について伺いました。
これからの結婚の形とは
須野田:本日は、社会学の教授で「婚活」「パラサイト・シングル」「格差社会」などの言葉を生み出した、山田昌弘(やまだまさひろ)先生に、「結婚の家族社会学」というテーマでお話しさせていただきます。
明治憲法の制定により、「夫婦が同姓で同じところに住み、同じ生活をおくる」という現在の結婚制度ができましたが、今は別居婚、週末婚、[※1]夫婦別姓など、これまでの結婚の形が古くなって当然の時代になりました。ただ、形の変化はあってもパートナーと共に人生を生きていくことは、続いていって欲しいと思います。
例えば、先生が少子化担当大臣でしたら、新しい結婚の形に必要なことなど、何を提唱されますか?
※1:夫婦別姓=夫婦が結婚後も改姓せずそれぞれの婚前の姓を名乗る婚姻および家族形態。現在日本ではこの制度は制定されていない。
山田:やはり、多様性を広げることが必要だと思っています。
欧米のケースと比較しますと、男性一人の稼ぎで生活を支えなければいけないという意識を払拭することが一番です。もちろん取り組まれていることもありますが、女性が働きやすい環境を作ること。また、日本は一旦レールから外れると正社員として復帰しにくい社会ですので、いろいろなところで再チャレンジができれば、結婚がしやすくなる社会となります。今の日本はパートナーがいないといろいろな意味で生き難い社会になっています。今日、高齢者婚活について、というインタビューを受けたのですが、少子化対策だけの婚活支援をすることに私は反対しています。
須野田:先生の85歳の男性と79歳の女性の結婚のお話しはいいなと思いました。
私もまだまだ再婚できるかなと思って聞いておりました。
山田:今は孤独死も問題になっていますので、それを防いだり、いざとなった時に、助けるという存在も人生にとっては必要です。また、楽しいことがあった時に、一緒に楽しんでくれるという人は必要だと思います。
須野田:オタクやバーチャルをやっているのもいいですけれど、実体験が無さ過ぎますよね。
山田:難しくなってきましたね。先日、「[※2]ソロ活」という番組に、ソロ(おひとりさま)でいいの?という反対意見者としての立場で出演しました。
そこで分かったのは、ソロでいいと言っている人はネットに依存しているということです。映画を一人で観るのは良いのですが、観た後に良かった…などと話す人が必要ですよね。2〜30年前までは、それがリアルな人でないとダメでしたが、今はネット上で感想を書いたり、美味しいものを食べたらインスタグラムにあげて、シェアすることができるので、それが未婚化に拍車を掛けているのだと思います。でも、バーチャルをやめろとも言えないですよね。
※2:ソロ活=周りと積極的に関わりをもつことなく、時間もお金も自分のために使うという動きのこと
須野田:ただ、パラサイト・シングルと言えども、年を取ってくるわけです。
弊社の会員様に60代でパラサイト・シングルの方がいますが、ご両親が80〜90代。患っているご両親がいると、やがては介護が必要になります。自分が介護をして、ご両親を看取ったとしても、気が付いたら60〜70歳になっていて、今度は自分を介護してくれる人がいるのか、一緒に暮らしてくれる人がいるのかというと難しくなってきますね。そのような場合の警鐘を鳴らしていただきたいと思います。
山田:それは、昨年某テレビ局で「アラフォー・クライシス」という番組が放映され、書籍が出ていますよ。
須野田:その本の中では、どのようなことが言われているのですか?
山田:私が「パラサイト・シングル」と名付けた20年前は、独身者というと20代だったわけです。結局、当時の20代独身者の1/3の人が結婚せずに、40代に突入しています。親の建てた家で、親の年金で暮らしている今のうちは良いかもしれません、親のほうとしても子どもを家事や介護の手として使うことができるので良いのかもしれませんが、永続するわけではないのです。親が亡くなることを考えたくない、考えると暗くなるから考えたくないということも聞きました。
須野田:そこで親の介護が辛くて、親に手を出してしまうとか、また自分が介護の最中に亡くなってしまうとか、いろいろな問題が増えてきていますね。
山田:もちろん、夫婦だからといって、根本的に解決されるわけではないのですが、一人で背負うよりも、二人で背負ったほうが良いですよね。
須野田:弊社の会員様の成婚カップルで、両方とも60代で、片親ずつで老齢の親御さんを抱えているカップルがいました。夫の親御さんはまだ元気で自宅の近くに住み、妻の親御さんは寝たきりのため施設で生活をされていました。そこにも一緒に通ってあげるということで、60代からの再婚には親のことを抜きには考えられないということですね。子どものことを心配されて反対するとか、財産相続問題があるとも言われますけれど、この頃は、子どもはいいんじゃないのと言われ、逆にその親の親の介護をどうしていくかという問題のほうが大きくなっています。少子化ですからね。
希望出生率とは…夫婦でパラサイトもあり?
須野田:例えば今、日本の夫婦になったカップルの希望出生率というのが、1.8人だそうです。その希望が受け入れられると、いっぺんに少子化が解決するはずです。
なぜ、夫婦になったのに、思うように子どもが産めないのか。現在は、晩婚化において男性不妊も増えている、セックスレスも増えている、セックスをしたくない人も増えているという現状がありますが、先生はどう思われますか?
山田:生物学的に大丈夫なのですか、と思いますが。
須野田:社会的に当面続きますか?
山田:それは原因ではないのですが、日本ではバーチャルなり、テンポラリーな関係(仮のもの、夢など)を、買うことができてしまうので、なかなかリアルなほうにはいかないのではないかと思います。
須野田:婚外子の話ですが、フランスやスウェーデンは半分以上が婚外子ですよね。世間的なことを考えて、日本は異常に少ないですね。20代の女性にアンケートを取ると、夫はいらないけれど、子どもは欲しいという女性が18%〜20%いるそうです。その方たちは、20代の未婚の人口から比べると80万人!その方たちが一人産んでくれると、倍の子どもの数になります。現在は、一年で生まれる数は90万人台。それはどのような現象なのでしょうか?
山田:それが今、現実化しているのがイタリアです。
イタリアは婚外子が少なかったのですが、21世紀に入って婚外子の割合が3割ほどまでに増えているのですよ。研究者に訊きましたら、パラサイト同棲やパラサイト婚外子だそうですね。
須野田:おじいちゃん、おばあちゃんがいて、そこに孫を産んであげるからということ?
山田:はい。女性側もしくは、男性側のところにパートナーが転がりこんで、そして子どもが産まれる。
須野田:夫婦でパラサイトということですね。それは親も受け入れているということでしょうか?
山田:結局、意識が変わったのでしょうね。それが増えてきても、他の人もやっているからと、一気に意識が変わってきて子どもが増えているのです。
須野田:法律うんぬんかんぬんよりも、日本人は周りの風潮に弱いですね。そういう風になってくれば、一気に変わる可能性もゼロではありません。
山田:日本ですと、一割ぐらいの段階だと全く変わらないのですが、三割、四割を超えるとガラッと変わりますね。話は変わりますが、介護保険がそうなのです。
つまり、20年前に介護保険を導入した時、日本人は世間体があるから、介護のホームヘルパーを家に呼ばないだろうという前提で設計したのです。すると、隣の家がヘルパーを使っているのだったら、うちでも使ってもいいじゃない、ということで、ドンドン介護保険を使う人が増えてきて、逆に想定した利用率を大幅に上回ったので、大変なことになっています。ですから、ガラッと意識が変わったのですよ。昔はお嫁さんがいるのだったら、外からヘルパーを入れるのは恥ずかしいということが多かったのですが、今は多くのところでそれは構わないとなり、ガラリと変わりました。
ネット社会のメリット・デメリットとは?
須野田:そうすると、私が作りました「結婚アテンダント」という仕事、恋愛できない人に恋愛の良さを教え指南し、モテるようにして差し上げ、そして結婚した後の5年間、一番離婚率が高いヨチヨチ歩きの夫婦の相談に乗ってあげる、というものですが、その必要性について、先生はどう思われますか?
山田:あるといいですよね。なぜかというと、学生の恋愛行動や性行動を調査した日本性教育協会の調査で、ここ20年で一番大きく変わったのは、恋愛や性の話を友達同士でしなくなった、ということだそうです。
須野田:それはどうしてでしょうか?
異性同士ならまだしも、私たちの時代には、同性同士ですと話していましたよね。
山田:その原因には、スクールカーストがあるかと思います。
モテる人はモテる人同士で、モテない人はモテない人同士で友達となるので、モテない人同士が恋愛や性の話をしてもしょうがなく、そのように話さなくなったのではないかというのが一つの説です。多分それが、学校を卒業してからも似たような状況があるということでしょうか。同じような人と付き合うようになったということですね。それはネット社会も絡んでいますよ。
須野田:ネット社会はなくなるどころか、ますます形を変えて、生活の中に入り込んでいます。それとどう向き合って、バーチャルではない、リアルな恋愛や結婚を勧めていくことを職業としている人たちに、どのように提唱していけば良いかをアドバイスしていただきたいのですが。
山田:リアルのほうが楽しいに決まっているのですけれども、と言うと語弊があるかもしれませんが。
須野田:リアルな楽しさですよね。実際の夫婦が、嫌なことや大変なことを面白おかしく話す風潮があります。マスコミでも離婚の問題が華々しく取り上げられるご時世。でも、2/3の夫婦は離婚していない夫婦。もしかして半分は離婚寸前かシビアな夫婦かもしれませんが、本当にうまくいっている方たちはいっぱいいますので、それを報道してくれることも必要かと思います。先生はいかがでしょうか?
山田:私は、テレビ番組「新婚さんいらっしゃい!」を毎週観ていますが、それは楽しそうですよね。最近は多様な夫婦が登場していて良いと思いますよ。
須野田:興味があるのは、男性が家事をする専業主夫をウリとした婚活パーティーを開催すると、女性は多くの参加があるけれど、男性は引いてしまうというのは本当でしょうか?
山田:男性が集まらないと聞きますね。収入が少ないから女性に頼る情けない男性、というレッテルを貼られてしまうということもあるかもしれません。
私が10年ほど前に東大で教えていた時に、感想文の中に、僕は専業主夫になりたいという男子学生がいました。だから頑張って東大に入りました、と。
須野田:なるほど、周りにいる女性たちが稼いでくれるので、ということでしょうか。稼いでくれる妻の青田買いですね。そのために東大に入ったというのはスゴイです。 今は、あまり周りを気にしないで行動すれば、オタク同士の結婚も面白いですし、それぞれ新しい概念の出会い方のセッティングができると思います。
山田:逆にネット社会の良い点はそこで、思わぬ結びつきが生まれるようになったのは、ネット社会の良い点だと思います。
須野田:でも、それがネット社会のみで繋がると、実際に会うところまでいく人は少ないのですよね。
山田:日本はリスクの意識が高いです。少しでも危なそうというと引いてしまいます。欧米はネット経由の恋愛がほとんどですが、リスクを取ってでも、新しい出会いを見つけて、自分で危ないと思ったらサッと引くと。そのようなことが訓練できているのです。日本はとにかく、少しでも危ないと思うと近寄らない。
須野田:恋愛したくないというのも、本音としては傷つきたくない、ということ。
今の若者たちは、生まれながら進化をつづけるネット社会にふれ、便利なツールが増えたことで、生で人との接触が少ない分、少しでも失敗すると人と関わりたくない、傷ついた、となるのです。
山田:ゲームやキャバクラは、人で傷つくというリスクがないわけですよ。
お金さえあれば、話を聞いてくれてちやほやされる。
須野田:ということは、その人たちを呼び込むためには、それこそ結婚というのは現実の人間が相手になるわけですから、かなりハードルが高いですよね。会話からしても、喫茶店で30分何を話すと良いか分からなくて、向かい合ってメールを打ち合うわけにもいかず…打っている方いますけれどね(笑)
でも、お見合いの時にはいませんよね。それを指南していかなければなりません。
山田:そうですね。異性ではなくとも、コミュニケーションの楽しさを伝えていくことです。
結婚アテンダントの役割とは
須野田:実は、弊社は新しく、DNAマッチングというものを始めました。DNAで検査をして相性の良い者同士をマッチングさせるというものです。
山田:はい、私もコメントさせていただきましたが、結婚へのひと押しとして良いと思います。ひと押しでもあり、言い訳の一つですよ。「DNAが合ったから」と。
先ほどのテレビ番組の中でも「どうして結婚したのですか?」と尋ねると、「神社のマッチングイベントで、神様が決めてくれたから」ということでした。日本人は自己責任が苦手なのですよ。
須野田:では、結婚アテンダントが(相手を)勧めてくれたから、もいいですよね。
山田:いいですね。結婚アテンダントには文句は言えますが、DNAにも神様にも文句は言えないですね。
須野田:結婚アテンダントとしては、こういう方法があるからこうしなさい、ではなくて、こちらとこちらの方法がありますが、あなたがお決めになってください、と言うのはいかがですか?
山田:それは難しいですね。人によりますよね。あれやって、これやってと、なかなか言いにくい世界ではないですか。
須野田:千人いたら千通りのアドバイスを変えなければいけませんね。
山田:それは、本当に専門職として認定したいです。
須野田:はい、国家試験にしたいのです。先生、ご協力宜しくお願いいたします。
結婚ブームを作る!
須野田:最後に、上皇様が皇太子の時代に恋愛結婚が憧れになり、恋愛・結婚ブームになったということで、私の母もあのようなロマンスはいいわねと、お見合いでしたが父を好きになり恋愛をして結婚しました。現在の天皇陛下も恋愛結婚ですね。次の世代にもロマンスが出ると良いのですが。
どうすると、結婚したいというブームの火付けをできるでしょうか?先生が少子化対策大臣でしたら、何をして結婚ブームを作ろうと思いますか?
山田:ブームと言いますか、まずは、経済的な安心感を整えることですね。
須野田:ということは、働き方の改革をしなければいけないですね。それによって、保障を充実させると、だいぶん改善するでしょうか?
山田:かなり改善するでしょう。
まだ不十分ですけど、授業料免除や・奨学金などが充実してくると変わるかと。学生に訊くと、子どもは一人で良いという学生が多いのですが、私のために両親が一生懸命頑張って働いてくれているので、孫を一人は見せてあげたい、とのこと。でも、自分の収入だと二人の大学の授業料を負担するのは無理と言いますので、そこが変わっていけば良いですね。
須野田:本日の先生のお話では、様々なデータを見せていただき、分かりやすく伺うことができました。私たちは結婚アテンダントとして、日本の底辺を支えている仕事だと自負してやっております。恋愛したくなる、結婚したくなる文化を、是非作っていきたいと思います。先生、どうぞご協力お願いいたします。
本日はありがとうございました。
山田 昌弘(やまだ まさひろ) プロフィール
山田 昌弘(やまだまさひろ)
日本の社会学者。 中央大学文学部教授。
専門領域は家族社会学・感情社会学ならびにジェンダー論。
東京学芸大学の助教授だった1999年(平成11年)、成人後や学卒後も親と同居し続ける未婚者を「パラサイト・シングル」と命名し話題に。一躍その名を知られるようになる。
近年では新書『「婚活」時代』の中で、白河桃子と共に「婚活」という造語を考案・提唱し、流行させた。流行語大賞の時に授与された記念の盾は今も研究室で大切に保管されている。
またチョコレート好きでも知られ、毎日食べるほどである。